フォトクロミックジアリールエテンについて

 数ある有機機能性材料のなかで、光や熱によって可逆に分子の形(分子の構造)を
変化する反応がある。このような反応はフォトクロミック反応として知られている。
天然界にも多く存在し、たとえば、人間の網膜の細胞にあるロドプシンやレチナール、
植物細胞に含まれるフィトクロムなどある。

 このようなフォトクロミック反応を光メモリ材料の分野、たとえばフロッピーディス
クやハードディスク等の情報記録媒体に応用するためには、高速応答性、情報の書き込
みと消去に関する繰り返し耐久性の向上、書き込んだ情報の安定性、固体状態で情報の
書き込みと消去ができることの条件を満たす必要がある。フォトクロミック反応を用い
る光情報記録媒体はディスク表面だけでなく、深さ方向に関しても多層の記録が原理的
に可能であるため、次世代の情報記録媒体として有望視されている。


図1.1,2−ビス(ベンゾフラニル)エテン誘導体のフォトクロミズム

 私の研究室では有機機能性材料の1つであるジアリールエテン誘導体に関する研究を
行っている。ジアリールエテンは、2つの光(可視光線と紫外線)によって交互に2つ
の形をとることができる。下に示すジアリールエテンの場合、紫外線(365 nmの光)に
よって赤色の形をとる物質に変化し、また、可視光線(>440 nmの光)によって無色の
形をとる物質へと変化する。この物質は単結晶状態で結晶の外形を変えることなく光照
射のみによって色変化し、一万回以上の情報書き込み・消去が可能である。


図2.単結晶フォトクロミック反応 (左)紫外光照射前(右)紫外光照射後

 ジアリールエテン分子がフォトクロミック反応することが報告(1988年)されてから
20年弱経つ。研究対象としてこれまではベンゾチオフェンとチオフェンに関する研究
が主であった。私は独自に、ベンゾフラン (2005年)、フラン(2006年)を開発した。この
ベンゾフランとフラン誘導体は従来のベンゾチオフェン、チオフェン系化合物と異なる
特徴が数多くある。