プロジェクトの目的

このプロジェクトは、日本人の青年期発達をいま一度総合的に理解するために取り組まれているものです。そのために12歳~25歳までの青年を対象に調査を行い、以下の問いを検討します。そして、その結果を基にして「日本の青年はいつ、どのようにして大人になるのか」を明らかにします。

(1)日本の青年にとってアイデンティティの発達はほんとうに必要な課題なのか?

青年期の大局的な発達的意義は、親から自立し、友人や社会的関係を広げ、 「私とは何者か」というアイデンティティを発達させることにあると説明されてきました。 しかし、本当にそれが青年期の発達課題であるならば、アイデンティティを十分に発達させられなかった者は、 大人になって力強く仕事をすることができず、社会生活を営めていないはずです。 情報化・グローバル化に伴って、職場での働き方が変わってきているとは言え、 集団主義、和の文化を持つ日本社会で、ほんとうに「私とは何者か」を 確立するアイデンティティ発達が大人にとって必要なものなのかを、私たちは明らかにします。

(2)日本の青年は欧米諸国の青年と同じように自立するのか?

国際的な文脈で日本人の青年期が注目されるようになってきました。 欧米諸国では、親と心理的なつながりを保ちつつも、親から分離することで子どもは自立していくとされてきました。 それに対して日本の青年は、親からの分離よりも親との強い心のつながりを重要視することが指摘されています。 そうだとすれば、日本の青年は親から本当に分離するのでしょうか。 また、親からの分離と親との心理的つながりが、アイデンティティの発達や心の健康に与える影響も異なるかもしれません。 私たちは、これらの点についても明らかにします。

(3)児童期から青年期へどのように移行するか、そして青年期はどんなふうに終わるのか?

男女によって、個人によって違いますが、はやい者は小学生の5、6年生頃、 つまり児童期の終わり頃から自己への問い直しを始めます。しかし、それが中学生、高校生と進むにつれて、 どのように「私とは何者か」のアイデンティティ発達に繋がっていくかの道筋については、 実は学術的にほとんど明らかにされていません。またこの過程には、 親からの自立も大きな発達課題として絡んでおり、平行して進んでいます。本プロジェクトでは、 (1)(2)の課題を解決することを通して、 自己意識からアイデンティティ発達へ、そしてそこに親からの自立の問題がどのように絡んで、 児童が青年になり、そして大人になるのかの発達的道筋を明らかにします。